最初に。
この文章は、参考書籍を用いずに書かれた、あくまでも俺の主観的な憶想である。明確な裏づけがあるわけでもないし、ましてや素人の戯言である。それを念頭に置いて読み進めて頂きたい。
社会の情報化が進むにつれ、実話怪談もその形態を変容しつつある。
怪談といえば、政治情勢や芸能に等しく、人々の口の端に上るゴシップジャンルである。にもかかわらず、胡散臭い存在とされていたのは、往々にして主観的で報道性を持たず、また理論的な証明や裏づけがなされ難いという性質を怪談が備えていたからである。多くの怪談は、フォークロアとして口頭伝承されるに留まっていた。
テレビやラジオなどで時折特集が組まれてはいたものの、単方向的な情報発信だったため、広く知れ渡る奇譚の母集団自体が少なかった。真贋を見極めるには、情報量が不足していたのだ。
転機は、インターネットの普及であるように思う。
殊に、web2.0の概念による部分が大きい。
無数に散らばる怪談の大半は、聞き手の数が限定された範囲内でのみ語られるものであった。それが、掲示板やブログが普及し、誰でも怪談を披瀝できる環境が形成されたため、情報の享受者が同時に情報の提供者ともなり得たのである。
「私だけの怪談・奇談」は、ネット上に放たれた時点で「多くの人が知っている怪談・奇談」となったのである。
だが問題もある。話の類型化である。
ディテールやシチュエーションなどの細かな相違はあるものの、梗概が似通った話というものが量産されてしまう。これは、情報の累積が進行する過程では不可避の状況ではあるが、そうなると今度は、マンネリ化が進み、それを打破するような斬新さを持つ奇譚が希求される。やがてそれも飽和化すると、今度は語り手の技量に懸かってくる。さらりと書けばありきたりと思われてしまうような話を、如何にして恐怖を煽る「芸能(そう、これはもう芸と呼んでいいだろう)」へと昇華させるか。リアリティが不完全なノンフィクションを、真に迫った描写で書き綴り、読み手の心を抉るこの作業、いやはや難儀としか言いようが無い。
ふと思うのが、実話怪談というジャンルが「先祖帰り」を起こしているのでは、ということである。
古い時代、怪奇譚の多くは、説話集の中に散見される情報源不詳のものであった。歴史上の有名人物にまつわる奇談にしても、伝説じみたものや風聞めいたニュアンスが少なからず込められている。ここには、古代から中世に至るまで日本の風土を支配した超自然的な存在、端的に言えば亡者の「祟り」に対する畏怖の念が露見している。
昔の日本人は、本能的に闇を畏れ、亡者を畏れ、人の強い念を畏れたのだ。
また、民間においては、専ら口頭による情報の拡散があったと思われる。中には、伝言ゲームのように内容が捻じ曲げられ、あるいは改竄され、最終的にはほとんど別の話となって語り伝えられた怪奇譚もあったことだろう。遠くから伝わった話が、さも卑近な者の体験談であるかのような、所謂「FOF(Friend Of Friend)」状態を引き起こしたことも、十分に考えられることである。
情報伝達の不完全さ、未成熟さが生み出す、ごく自然な現象である。
では現代はどうだろう。
実は、さほど変わっていなかったりする。いや、話のFOF化が益々進んでいるとも思えるのである。
先述の通り、情報の共有化が進み、誰もが多くの話のストックを有するに至っている。これを、積極的に怪談と関わらない者に「実は俺の友達が体験した話なんだけど」と騙り、言い伝えたらどうなるか。この先は言うまでもないだろう。実社会のみならず、情報の源泉であるネット上においても、同様の現象が起きている。時には、ペーパーメディアで公開された怪談が、ネット上へ「輸入」されることもある。真贋の境界線が、非常に曖昧なのである。
かつて、情報を一般に提供するのは限定された層であった。それゆえ、取材の末に執筆された「実話怪談」は説得力を持っていた。
それが今では、出所不詳の「実話怪談」が瀰漫し、真偽をつまびらかにする術が無いのが現状である。(もっとも、このことは取材にも言えるのだが……情報提供者が「これは真実なんだ」と声高に主張してしまったらどうしようもない。彼の者の良心に委ねるしかないのだ)
ネット社会は、終端が見通せないほどの発展を続けている。
今後も、有象無象のソースが濫立し、さぞかし我々を愉しませてくれることだろう。しかし、その真偽の程を確かめる手立てはどこにもないのだ。せいぜい、振り回されないように注意するくらいだろうか。
そろそろ、自分でも何が言いたいのか分からなくなってきたのでこの辺で。
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