サヨナラ、ラムタラ

 3日、新日高町静内のアロースタッドに繋養されていたラムタラ(牡14)が、英国に売却されることが明らかになった。
 シンジケートの関係者が明らかにしたもので、買い戻し価格は24万ドル(約2750万円)。6月中旬に行われたシンジケートの臨時総会における、書面決議で決定した。
 今シーズンの種付け終了後に英国へ移動する。

ソース:http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=14499&category=D

 正直、アメリカ遠征馬2騎が好成績を収めて無事帰国した以上に安堵したニュースである。
 ラムタラといえば、1990年代の欧州において最もファンタスティックなパフォーマンスを見せ付けた馬である。
 父は名馬ニジンスキー、母は英オークス馬スノウブライド。鼻血が出るほどの良血である。競争能力も半端ではなく、通算成績は4戦無敗。その中には史上2頭目、無敗としては史上初となる欧州三冠(英ダービー、キングジョージ、凱旋門賞)が含まれている。
 まさに天衣無縫、不世出の名馬である。
��余談だが、ラムタラの国際クラシフィケーションは130。パントルセレーブルとジェネラスの137、スワーヴダンサーの136と比較するとあまりに低評価である。これは、ラムタラに圧勝歴が無かったことと、対戦相手に強豪が少なかったことに起因するようである)
 そのラムタラを日高の生産者達が購入すると聞いたときは眩暈がした。そんな名馬を日本が所有していいものか。価格を聞いて、再び倒れそうになる。
 3000万ドル。邦貨にして30億円超。サラリーマン30人分である。
 この導入の際、気がかりになったことは、「これでこけたらどうするのか?」ということであったが、まさにそれは現実となってしまった。
 9年の供用で、産駒の最高成績はG3まで。最近ではオープンに駒を進める産駒も見当たらなくなり、まさにジリ貧状態の種牡馬成績だった。
 それ故、冒頭の安堵である。この名馬の血が継続する可能性が、ひとまずではあるが絶たれずに済んだのである。
 
 かつて日本は「血の墓場」と揶揄されていたのは周知の事実かと思う。種牡馬が成功を収めればその血を手放したり還元することをせず、日本国内で腐らせて終わらせてしまう。かつて、テスコボーイがセンセーショナルな成功を収めたのを契機に、こぞってプリンスリーギフト系種牡馬を買い漁った結果、この系統は今や欧州においては絶滅寸前である。そして、今やサクラユタカオーの直系のみとなったこの血統が、本家に還元される可能性はほぼ無に等しい。
 最近では、ダンシングブレーヴが近い例だろう。後継種牡馬は、欧州供用時代の代表産駒であるコマンダーインチーフ、ホワイトマズルを含めて全て日本に集結している。これらが日本で埋もれたまま終わるのは惜しい気がしてならない。
 逆に失敗した場合はというと、これも同じく母国へ送還されること無く極東の土となるケースが大半を占めていた。グランディの失敗を出すまでも無く、「もしこの馬が日本に来ていなければ……」と思うケースはそれこそ枚挙に暇が無い。
 還元と再生機会。この二つを欠いた日本の馬産はひどく中途半端で、最も悪質である。香港のように馬産を一切放棄するでもなく、競馬先進国のように独自の血統を伝統的に育てつつ世界の潮流を作るでもない。ただひたすら、種牡馬といういわば資源の鉱脈とも言える存在を、泉布をばら撒いて買い漁り、使うだけ使った後は次世代に繋ぐ努力を放棄してまた新たな血を買い漁る。ひたすらこの繰り返しであった。
 30年前以上前に導入された種牡馬の直系で、現在も生き残っておる系統といえば、パーソロンとテスコボーイくらいなものだろう。他はその悉くが歴史の中に埋葬されてしまった。これで「世界に通用する馬作り」などとお題目を掲げていたのだから、笑い話にもならない。
 その状況が、近年になってようやく変化してきた。
 サンデーサイレンスの直系はシャトル種牡馬として海を渡り、世界にその血を拡散させている(欲を言えば、一枚落ちランクの種牡馬は輸出して欲しいくらいだ。ローゼンカバリーやサイレントハンターあたりが欧州に渡ってくれれば、結構面白いことになりそうな……)。
 一方で、日本では失敗に終わった種牡馬も、その繁殖生命が尽きる前に早々に見切りをつけられ、母国あるいは他の地で再生の機会を得ている。
 ドクターデヴィアス、ヘクタープロテクター、ジェネラス。いずれも、日本で憂き目をみたまま終わるには惜しい馬ばかりであった。もっとも、ジェネラスは欧州ではなくトルコに渡ってしまったが、彼の地で革命的な成功を収めないと誰が断言できようか。
 その流れの中で、今回のラムタラ売却である。価格は24万ドル。購入時の10分の1にも満たない金額だが、イギリスで供用されることが救いであろう。
 ただ気がかりなのは、ラムタラが本当に欧州で良績を収めることが出来るのかどうか、である。というのは、ラムタラは1シーズンだけ欧州で供用され、産駒をターフに送り出しているのだが、いずれも鳴かず飛ばずだったからである。
 ラムタラの血統表はガチガチに主流血統で固められている。父は言わずもがな、母にしてもその父はこれまた大種牡馬ブラッシンググルーム、さらに遡ると御大ノーザンダンサーや源流ファリスへぶち当たる。所謂「血の袋小路」がラムタラの中に出来上がってしまっているのである。
 影響力が強い血ばかり集めると、いずれ飽和を引き起こして活力は失われる。良血×良血は必ずしも良いわけではない。となると、チリやアルゼンチンあたりに輸出されたほうが、よっぽど活躍できたのではないだろうか。
 と、好き勝手に書いてみた。て、すんごい長くなった。自分でも驚き。

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