新しく何か書こうと、テキストエディッタを起動させる。
キーボードの上に指を乗せるも、数分経っても最初の一文字が打ち込まれない。
何を書きたいんだか、さっぱり浮かんでこない。
もうこの状態が半年以上に亘って続いている。焦燥感とは裏腹に、創作意欲が湧いてこない。
焦る必要がない事は重々承知だ。プロの物書きではないのだ。趣味で書いてるだけなのだ。しかし、書くことで保っていたアイデンティティが瓦解していくように感じているのも事実だ。
モニターの前で焦れる俺の後頭部から、不意に声が掛かる。
「まだ何も書けないのか?」
弾かれたように振り向く。だが、万年床と崩れかかった本の山に埋もれた部屋には、俺以外に誰もいない。
「そんなとこにいねえよ」
またも背後から声。いや、聞こえるのは俺の中から、か?
「駄目だなあお前は。オチがありきたりだとか、客観的に読んでてつまらないだとか、くだらないことに拘りすぎてるんだよ。違うだろ? 書きたいから書いてるんだろ?」
声が低く粘っこく、耳の奥に響く。
「俺に代わってみろよ。俺なら呼吸するのと同じくらい当たり前に書き続けてやれるぜ」
指がキーボードをゆっくり押し下げていく。だが、その指を操っているのは誰だ?
最初の一文字がディスプレイに浮かんだ。反射的に俺はDelキーで文字を削除する。
声は消えた。俺は変わらずここにいる。
だが、その自我をいつまで保っていられるかは分からない。
まあ、そうだわな
さて、今日は二本立て。
軽くパラノイア気味の日記第一弾は、下のほうで読んでいただくとして。
ディープインパクト、今期限りで引退
http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=16144&category=A
凱旋門賞で3着に破れ、今後の動向が注目されていたディープインパクトの年内引退の意向が、オーナーサイドより池江調教師を通じて発表された。
引退後は総額51億円(8500万円×60口)という巨額のシンジケートが組まれる予定である。
冷静に考えれば、これが至極真っ当な選択だろう。
ファンの立場からすれば「もっとこの馬の走りを見たい」「来年もフランスへ渡り、凱旋門賞でリベンジを果たしてもらいたい」という願いが強いだろう。ショービジネスの観点から言えばこれもまた真っ当ではあるが、統括的な競馬ビジネスという点を考えると、オーナーの選択が正しいだろう。
競馬には絶対は無い。来年まで現役を続行させた場合に、ディープインパクトがレース中に予後不良とならない保証はどこにもない。万が一そういうケースに陥れば、金銭的な損失以外に、種牡馬として成功する可能性まで永久に失ってしまう。
現在の競馬界は、圧倒的に巨大な金額が動くビジネスの場だ。そこに安っぽいロマンは入り込む余地は、もうないのかもしれない。
もっとも、某TM馬のように、「馬券が買えない海外に遠征するのはファンサービスの精神に反する」などと意味不明なことを言い放ち、「高額賞金渦巻く国内での現役続行」というビジネスを選択した結果、力の衰えを露呈して晩節を汚した例もあるにはあるが。しかも、引退後にシンジケートを組まずに個人所有にしちゃって、種牡馬としての前途が暗いというおまけ付きだったり。
欲の皮突っ張らせるのもほどほどに、てところか。
軽くパラノイア気味の日記第一弾は、下のほうで読んでいただくとして。
ディープインパクト、今期限りで引退
http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=16144&category=A
凱旋門賞で3着に破れ、今後の動向が注目されていたディープインパクトの年内引退の意向が、オーナーサイドより池江調教師を通じて発表された。
引退後は総額51億円(8500万円×60口)という巨額のシンジケートが組まれる予定である。
冷静に考えれば、これが至極真っ当な選択だろう。
ファンの立場からすれば「もっとこの馬の走りを見たい」「来年もフランスへ渡り、凱旋門賞でリベンジを果たしてもらいたい」という願いが強いだろう。ショービジネスの観点から言えばこれもまた真っ当ではあるが、統括的な競馬ビジネスという点を考えると、オーナーの選択が正しいだろう。
競馬には絶対は無い。来年まで現役を続行させた場合に、ディープインパクトがレース中に予後不良とならない保証はどこにもない。万が一そういうケースに陥れば、金銭的な損失以外に、種牡馬として成功する可能性まで永久に失ってしまう。
現在の競馬界は、圧倒的に巨大な金額が動くビジネスの場だ。そこに安っぽいロマンは入り込む余地は、もうないのかもしれない。
もっとも、某TM馬のように、「馬券が買えない海外に遠征するのはファンサービスの精神に反する」などと意味不明なことを言い放ち、「高額賞金渦巻く国内での現役続行」というビジネスを選択した結果、力の衰えを露呈して晩節を汚した例もあるにはあるが。しかも、引退後にシンジケートを組まずに個人所有にしちゃって、種牡馬としての前途が暗いというおまけ付きだったり。
欲の皮突っ張らせるのもほどほどに、てところか。
アニヴァーサリー
気付いたらサイト開設4周年過ぎてやがりましたよ。
来訪してくださったのべ14000人強の方々に感謝ですよ。
つかアクセス数少ないなオイ。2ちゃんねるの一日の訪問数の100分の1にも満たねぇよ。山奥に「ふれあいコートジボアール館」とか建造したほうが、よっぽど客入るんじゃねーの、と。つか何展示してるんだコートジボアール館。ちょっと興味あるじゃねえか。
そろそろ、超-1に送った作品の掲載と自己評でもうpしようかと思ったけど、メンドイんで後日に。て、こんなんだから人来ねえんだよ。わかんねえかなこのバカは。
ディープインパクトが来年も現役続行、との噂が流れてる模様。
普通に考えれば、既に功成り名遂げているわけであり、評価は半ば固定化されていると思う(今後、高松宮記念-スプリンターズS連覇とか、安田記念を1分30秒台で圧勝とかやっちゃったら話は別だろうけど、実現性はかなり乏しいわけで)。
この先の戦績が第二の仕事(つまり種牡馬生活)に大きく影響しないであろうことを考えると、リスクを負って現役を続行するくらいなら、とっとと精液迸らせてたほうが得じゃないか、と考えるのが一般的じゃなかろうか。
仮に現役続行するなら、有馬記念を辞退して金杯に出走とか、別な方向でセンセーショナルなことをやってくれなきゃつまらん。つか何kg背負うんだろう、金杯で。ワクテカ。
タバコが切れたので今日はこの辺で。
来訪してくださったのべ14000人強の方々に感謝ですよ。
つかアクセス数少ないなオイ。2ちゃんねるの一日の訪問数の100分の1にも満たねぇよ。山奥に「ふれあいコートジボアール館」とか建造したほうが、よっぽど客入るんじゃねーの、と。つか何展示してるんだコートジボアール館。ちょっと興味あるじゃねえか。
そろそろ、超-1に送った作品の掲載と自己評でもうpしようかと思ったけど、メンドイんで後日に。て、こんなんだから人来ねえんだよ。わかんねえかなこのバカは。
ディープインパクトが来年も現役続行、との噂が流れてる模様。
普通に考えれば、既に功成り名遂げているわけであり、評価は半ば固定化されていると思う(今後、高松宮記念-スプリンターズS連覇とか、安田記念を1分30秒台で圧勝とかやっちゃったら話は別だろうけど、実現性はかなり乏しいわけで)。
この先の戦績が第二の仕事(つまり種牡馬生活)に大きく影響しないであろうことを考えると、リスクを負って現役を続行するくらいなら、とっとと精液迸らせてたほうが得じゃないか、と考えるのが一般的じゃなかろうか。
仮に現役続行するなら、有馬記念を辞退して金杯に出走とか、別な方向でセンセーショナルなことをやってくれなきゃつまらん。つか何kg背負うんだろう、金杯で。ワクテカ。
タバコが切れたので今日はこの辺で。
after the fever
Prix de l'Arc de Triomphe Lucien Barriere (Group 1)
Longchamp 1m4f
1 Rail Link (GB) 4 A Fabre 3 8-11 S Pasquier
2 nk Pride 5 A De Royer-Dupre 6 9-2 C-P Lemaire
3 ½ Deep Impact (JPN) 2 Y Ikee 4 9-5 Y Take
4 2½ Hurricane Run (IRE) 1 A Fabre 4 9-5 K Fallon
5 2 Best Name (GB) 3 Robert Collet 3 8-11 O Peslier
6 snk Irish Wells 7 F Rohaut 3 8-11 D Boeuf
7 4 Sixties Icon (GB) 8 J Noseda 3 8-11 L Dettori
8 1½ Shirocco (GER) 6 A Fabre 5 9-5 C Soumillon
8 ran TIME 2m 31.70s (slow by 0.20s) TOTAL SP 122%
というわけで、今年の凱旋門賞は3歳馬レイルリンクが制した。戦前では古馬3強対決と言われながら、終わってみればやはり斤量に恵まれた3歳馬の勝利。レイルリンクがアレッジド級に育つのか、はたまたサガミックス級で終わるのか。答えは来シーズンに持ち越されることとなった。
2着には紅一点のプライドが鋭く差し込んできた。牝馬にはややきつい58kgを背負いながらも勝馬をクビ差まで追い詰めた末脚は立派の一言。サンクルー大賞典でハリケーンランを破ったのはフロックではなかった、というところか。
さて、ディープインパクト。七度目の正直は成らなかった。
ディープを取り巻くディスアドバンテージは戦前から囁かれていた。だが、ローテーションについてはともかくとして、他の要素は敗北に対する決定的要因にはなりえない。
当日のロンシャンは馬場はGood、地盤はFirmでかなり状態がよく、他のレースでは速いタイムが出ていた(2歳の1400mのGIが1分18秒台で決着していた。これは日本レコードより速い時計である)。凱旋門賞は当日の全レースの中で平均ラップが最も遅く、結果としてあのような遅いタイムでの決着となった。馬場が重かったわけでは、決してない。
3歳馬との斤量差は、無視できない存在だった。しかし、古馬で凱旋門賞を勝った馬は皆無ではない。十分勝てる負担重量なのだ。慣れない馬場との相乗効果、というならば、アウェーでかつ59.5kgを背負って勝利を収めたリボーやトニービンはどう説明するのか。さらに言えば、ディープを後方から抜いて2着に入線したプライドも古馬の負担重量である。
��余談だが、某SNSで「59.5kgはきつい。凱旋門もハンデじゃなくて別定にすればいいのに」というレスがあった。
凱旋門賞はハンデ戦ではなく、馬齢による定量負担である。ハンデ戦だったら、斤量差はこんなものでは済まないだろう。また、別定戦とは「それまでの戦績に応じて負担重量を決めるレース」であって、全馬が同量を背負うという意味ではない。
そもそも、別定などにしたら何を基準に負担重量を決めろというのか。レースの格による負担にしても、ディープは国際GIである宝塚記念を勝っているので全く意味がないし、他の馬も大半がGI馬だから、ただいたずらに斤量が増えるだけの話である。賞金による負担だとしたら、世界トップクラスの高額賞金国からの参戦馬は圧倒的に不利だ。
軽い斤量の3歳馬が有利だと喚くならば、昨年の有馬記念ではディープを破ったハーツクライのほうが重い斤量を背負っている。もう少し考えてから発言してもらいたい)
騎乗は「あれでよかった」とする声と「もうちょっと何とかならなかったのか」とする声とで意見が二分されている。俺は後者派だ。
ややもっさり気味のスタートながらも先団に取り付いてしまい、武が手綱を引く場面もあった。終始馬群のど真ん中でレースを進めるのは菊花賞で経験済みだったにしても、ちぐはぐな印象があった。
だからこそ、フォルスストレートの出口付近で早々に先頭に並びかけて押し切ってしまおうとしたのはいただけないように思えた。追い出しをもう少し遅らせただけで、結果は変わったのではないか。実況席で岡部元騎手が「まだまだ、まだ」と発してしまったのも分かる気がする。菊花賞はそれで押し切れても、凱旋門賞では通用しなかった。
とまあ、敗因に関して今更ああだこうだ言ったところで結果論でしかない。レースは既に確定し、ディープは3着という結果が手元に残っただけだ。強い馬はあらゆる条件を克服して先頭でゴールする馬である。ディープは速い馬だ。しかし、初めての欧州の舞台と負担重量に慣れず、展開に応じた自在性あるレース運びを出来なかった。それだけである。ぐだぐだと敗因要素を並べ立てて「今回の負けは、力負けじゃない」と呪詛のように繰り返し続けるファンに対して「惜しくても負けは負け。綺麗事を言ってもしょうがない」と結果を真摯に受け止めたコメントをした池江調教師は潔い。最も悔しい思いをした一人だろうに。
今年の凱旋門賞は、レースそのものより日本人ファンの熱狂振りが強く印象に残った。良い意味ではなく悪い意味で。
マスメディアが煽動した結果、ディープインパクトは競馬界を超えたカリスマ的偶像として日本に君臨した。だがそれは、ミーハーなファンを徒に増やしたにすぎなかった。
観戦ツアーは、ノリ的にはサッカーのワールドカップのそれと大差ないように思えた。馬券を買い漁った結果、単勝オッズを1.1倍。一体いくら買ったんだよお前らは、と問いたい。
最後の直線では日本の競馬よろしく怒号に近い歓声を張り上げ、ディープが破れたのを知ると悲鳴が飛び交う。明らかにロンシャンの風景から浮いていた。
パリジェンヌたちの目には、遠く島国からやってきた応援客がどう映ったのだろうか。ある者は眉をひそめ、またある者は冷笑を浴びせたのではなかろうか。いずれにせよ「Sports of Kings(貴族達のスポーツ)」という概念は当てはまらないだろう。
ここまで凱旋門賞で熱狂したのは、日本人くらいなものだろう。自国の最強馬が世界に挑むのだから興奮するのはわかるが、それでもちと加熱しすぎの感はあった。これが逆ならどうだろう。欧州最強馬がBCクラシックに挑む、となった時に、当地のファンはここまで入れ込むだろうか。
第85回凱旋門賞は、日本現役最強馬が3着に破れた、という事実に加えて、日本人の陳腐なナショナリズムをも露呈することとなった。競馬技術は世界に肩を並べても、競馬文化はまだまだ国内止まり、といったところか。
ディープインパクトの今後は未定である。
頭を掠めるのは、この後に控えているジャパンカップ、有馬記念をディープが連勝しても、今までのような熱狂的な声は、数段低いトーンとなるのではないか、という考え。
両レースを圧勝しても「慣れてる国内だとやっぱ強いねえ」「所詮は内弁慶か」と囁かれるのではないだろうか、というのは俺の杞憂に終わるのだろうか。
英雄の神話は絶頂を過ぎ、あとは終焉へと落ち込むだけである。だが馬は馬、なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
言いたい放題だね、俺。
Longchamp 1m4f
1 Rail Link (GB) 4 A Fabre 3 8-11 S Pasquier
2 nk Pride 5 A De Royer-Dupre 6 9-2 C-P Lemaire
3 ½ Deep Impact (JPN) 2 Y Ikee 4 9-5 Y Take
4 2½ Hurricane Run (IRE) 1 A Fabre 4 9-5 K Fallon
5 2 Best Name (GB) 3 Robert Collet 3 8-11 O Peslier
6 snk Irish Wells 7 F Rohaut 3 8-11 D Boeuf
7 4 Sixties Icon (GB) 8 J Noseda 3 8-11 L Dettori
8 1½ Shirocco (GER) 6 A Fabre 5 9-5 C Soumillon
8 ran TIME 2m 31.70s (slow by 0.20s) TOTAL SP 122%
というわけで、今年の凱旋門賞は3歳馬レイルリンクが制した。戦前では古馬3強対決と言われながら、終わってみればやはり斤量に恵まれた3歳馬の勝利。レイルリンクがアレッジド級に育つのか、はたまたサガミックス級で終わるのか。答えは来シーズンに持ち越されることとなった。
2着には紅一点のプライドが鋭く差し込んできた。牝馬にはややきつい58kgを背負いながらも勝馬をクビ差まで追い詰めた末脚は立派の一言。サンクルー大賞典でハリケーンランを破ったのはフロックではなかった、というところか。
さて、ディープインパクト。七度目の正直は成らなかった。
ディープを取り巻くディスアドバンテージは戦前から囁かれていた。だが、ローテーションについてはともかくとして、他の要素は敗北に対する決定的要因にはなりえない。
当日のロンシャンは馬場はGood、地盤はFirmでかなり状態がよく、他のレースでは速いタイムが出ていた(2歳の1400mのGIが1分18秒台で決着していた。これは日本レコードより速い時計である)。凱旋門賞は当日の全レースの中で平均ラップが最も遅く、結果としてあのような遅いタイムでの決着となった。馬場が重かったわけでは、決してない。
3歳馬との斤量差は、無視できない存在だった。しかし、古馬で凱旋門賞を勝った馬は皆無ではない。十分勝てる負担重量なのだ。慣れない馬場との相乗効果、というならば、アウェーでかつ59.5kgを背負って勝利を収めたリボーやトニービンはどう説明するのか。さらに言えば、ディープを後方から抜いて2着に入線したプライドも古馬の負担重量である。
��余談だが、某SNSで「59.5kgはきつい。凱旋門もハンデじゃなくて別定にすればいいのに」というレスがあった。
凱旋門賞はハンデ戦ではなく、馬齢による定量負担である。ハンデ戦だったら、斤量差はこんなものでは済まないだろう。また、別定戦とは「それまでの戦績に応じて負担重量を決めるレース」であって、全馬が同量を背負うという意味ではない。
そもそも、別定などにしたら何を基準に負担重量を決めろというのか。レースの格による負担にしても、ディープは国際GIである宝塚記念を勝っているので全く意味がないし、他の馬も大半がGI馬だから、ただいたずらに斤量が増えるだけの話である。賞金による負担だとしたら、世界トップクラスの高額賞金国からの参戦馬は圧倒的に不利だ。
軽い斤量の3歳馬が有利だと喚くならば、昨年の有馬記念ではディープを破ったハーツクライのほうが重い斤量を背負っている。もう少し考えてから発言してもらいたい)
騎乗は「あれでよかった」とする声と「もうちょっと何とかならなかったのか」とする声とで意見が二分されている。俺は後者派だ。
ややもっさり気味のスタートながらも先団に取り付いてしまい、武が手綱を引く場面もあった。終始馬群のど真ん中でレースを進めるのは菊花賞で経験済みだったにしても、ちぐはぐな印象があった。
だからこそ、フォルスストレートの出口付近で早々に先頭に並びかけて押し切ってしまおうとしたのはいただけないように思えた。追い出しをもう少し遅らせただけで、結果は変わったのではないか。実況席で岡部元騎手が「まだまだ、まだ」と発してしまったのも分かる気がする。菊花賞はそれで押し切れても、凱旋門賞では通用しなかった。
とまあ、敗因に関して今更ああだこうだ言ったところで結果論でしかない。レースは既に確定し、ディープは3着という結果が手元に残っただけだ。強い馬はあらゆる条件を克服して先頭でゴールする馬である。ディープは速い馬だ。しかし、初めての欧州の舞台と負担重量に慣れず、展開に応じた自在性あるレース運びを出来なかった。それだけである。ぐだぐだと敗因要素を並べ立てて「今回の負けは、力負けじゃない」と呪詛のように繰り返し続けるファンに対して「惜しくても負けは負け。綺麗事を言ってもしょうがない」と結果を真摯に受け止めたコメントをした池江調教師は潔い。最も悔しい思いをした一人だろうに。
今年の凱旋門賞は、レースそのものより日本人ファンの熱狂振りが強く印象に残った。良い意味ではなく悪い意味で。
マスメディアが煽動した結果、ディープインパクトは競馬界を超えたカリスマ的偶像として日本に君臨した。だがそれは、ミーハーなファンを徒に増やしたにすぎなかった。
観戦ツアーは、ノリ的にはサッカーのワールドカップのそれと大差ないように思えた。馬券を買い漁った結果、単勝オッズを1.1倍。一体いくら買ったんだよお前らは、と問いたい。
最後の直線では日本の競馬よろしく怒号に近い歓声を張り上げ、ディープが破れたのを知ると悲鳴が飛び交う。明らかにロンシャンの風景から浮いていた。
パリジェンヌたちの目には、遠く島国からやってきた応援客がどう映ったのだろうか。ある者は眉をひそめ、またある者は冷笑を浴びせたのではなかろうか。いずれにせよ「Sports of Kings(貴族達のスポーツ)」という概念は当てはまらないだろう。
ここまで凱旋門賞で熱狂したのは、日本人くらいなものだろう。自国の最強馬が世界に挑むのだから興奮するのはわかるが、それでもちと加熱しすぎの感はあった。これが逆ならどうだろう。欧州最強馬がBCクラシックに挑む、となった時に、当地のファンはここまで入れ込むだろうか。
第85回凱旋門賞は、日本現役最強馬が3着に破れた、という事実に加えて、日本人の陳腐なナショナリズムをも露呈することとなった。競馬技術は世界に肩を並べても、競馬文化はまだまだ国内止まり、といったところか。
ディープインパクトの今後は未定である。
頭を掠めるのは、この後に控えているジャパンカップ、有馬記念をディープが連勝しても、今までのような熱狂的な声は、数段低いトーンとなるのではないか、という考え。
両レースを圧勝しても「慣れてる国内だとやっぱ強いねえ」「所詮は内弁慶か」と囁かれるのではないだろうか、というのは俺の杞憂に終わるのだろうか。
英雄の神話は絶頂を過ぎ、あとは終焉へと落ち込むだけである。だが馬は馬、なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
言いたい放題だね、俺。
凱旋門賞
世界最高峰のレース「凱旋門賞」がいよいよ三日後に迫った。
当初出走予定だった英ダービー馬サーパーシー、ヴェルメイユ賞馬マンデシャが今週になって回避を表明したことで、最終的には史上2番目の小頭数となる8頭立てでレースは行われる模様である。
常に定員超過状態の日本のGIと異なり、見込みがなければ他のレースへ回る潔さがいかにも欧州流、といったところか。記念出走や、「あわよくば上位に食い込んで賞金を持ってくるのでは」というスケベ根性丸出しの陣営が少数派なのが良い。だがそれは裏を返せば、出走するのは淘汰を経て舞台に残った馬達が揃ったということであり(明らかに二枚も三枚も落ちる馬は、同厩舎の有力馬のラビット役)、紛れが少なく実力が如実に結果に反映される。ファンにしてみれば興をそそられるであろうが、出走馬陣営にしてみれば恐ろしいことだろう。
今年の凱旋門賞は、ディープインパクトが出走するとあって、競馬サークル外でも関心が高まっている。三冠馬の海外遠征はシンボリルドルフ以来20年ぶり。そのルドルフが目標としながら出走すら叶わなかった凱旋門賞であることが何やら因縁めいているように思える。
確かにディープインパクトの実力の高さは衆目の一致するところである。が、付き纏う不安要素は連日そこかしこで取沙汰されている。
まず一つにローテーション。ディープインパクトはこれまで間隔を開けて使われ、結果を出してきた馬である。しかし今回は宝塚記念以来3ヶ月ぶりの実戦だ。逐一報告される調教過程は「順調」「絶好調」を連呼しているが、調子は絶頂でも勝負勘が戻っているかどうかとなると話は別だ。
少なくとも過去20年の間で、中3ヶ月で凱旋門賞を制した馬はゼロである(ラムタラにしても、キングジョージからは中2ヶ月)。約40年前まで遡ったところでようやく該当馬に行き着くが、その馬は20世紀最強と謳われたシーバードである。その領域にディープインパクトがたどり着いたかどうかについては何とも言えない。
ちなみに、フォア賞→凱旋門賞の連覇はアレッジド以来途絶えた「鬼門」とされているが、フォア賞負け→凱旋門制覇は1992年にスーボティカが達成しているので、ハリケーンランとシロッコにとって向かい風、というわけでもなさそうである。
次に問題なのが、馬場状態。どうやらおフランスではここのところ連日夜間に降雨があるようで、レース当日のロンシャンがパンパンの良馬場になる可能性は高くないだろう。
「ディープは重の宝塚を圧勝したから大丈夫だろう」という声もある。しかし、日本の重馬場とあちらの重馬場ではかなり事情が違う。クッションが効いた地盤は水を吸うとさらに柔らかくなり、球節が埋まるほどにまで悪化するという。つまり、レースで勝ち切るにはさらなる馬力が必要とされるのである。ディープインパクトは切れる末脚を長く使える馬だから直線半ばで売り切れる心配はないにしても、身上である切れ味を活かすことなく終わる(武豊流に言えば「飛ばなかった」)のではないだろうか。
とは言え、馬場条件は各馬一緒。となるとレース結果を占う上で最重要となるファクターは、やはり相手関係か。
下馬評では、今年の凱旋門賞は古馬ビッグ3による三つ巴、となっており、ブックメーカーのオッズにもそれは如実に表れている。
現在のところ一番人気は、ディフェンディングチャンピオンであるハリケーンラン。通算成績は11戦8勝2着3回の連対率100%。前走のフォア賞はシロッコの後塵を拝したものの、明らかに本番前の叩き台で力不足を露呈しての敗戦ではない印象である。主な勝鞍と照らし合わせてみるに、クラシックディスタンスへの適正の高さは全出走馬随一である点からも、王座防衛の可能性は決して低くない。
父が重の鬼モンジュー(この馬もまた凱旋門賞馬)である点から、重馬場も特に問題が無さそうである。しかし気になるのが、この馬が父親と非常に似通った道程を歩んでいる点。父モンジューもまた春にはフランス・アイルランドの両ダービーで主役を張り、秋には凱旋門賞で王座を戴冠。明けて翌年はタターソルズGC快勝→英国で1戦(コロネーションC1着)→キングジョージ制覇、という道のりを経て凱旋門連覇に挑んだものの、4着に終わる。「モンジューの劣化コピー」とまで揶揄される当馬、この尻すぼみっぷりまで継承してしまうのではないかという危惧もある。
もう1頭の有力馬シロッコは今期負け無しの3連勝。正確に言えば、昨年秋のBCターフから4連勝中である。5歳にしてなお盛んであることから晩成馬のようにも思われるが、3歳春にはドイツダービーを圧勝している。生まれ持った高い素質と成長力を兼ね備えた馬であることが分かるだろう。勢いで言えばハリケーンランよりはこちらかもしれない。良重兼用である点も怖いところだ。
だが、過去10年で古馬になって凱旋門賞を制したのはわずかに2頭である。これはひとえに、3歳馬と古馬との斤量差に依るところが大きい。古馬59.5kgに対し、3歳馬は56kgで出走できる。強力な3歳馬にとって、3.5kgはハンデもらいどころか強力なアドバンテージとなって作用する。
��ディープインパクトも当然59.5kgを背負うことになる。軽量馬であるディープインパクトにとって、これがどう働くのか…)
では今年の3歳馬はどうか、というとあまりぱっとしないというのが正直な感想か。英ダービー馬サーパーシーは冒頭で述べたとおり、筋肉痛により回避。愛ダービー馬ディラントーマスは愛チャンピオンS勝利後に早々と陣営が凱旋門賞回避を表明、仏ダービー馬ダルシもまた凱旋門賞を回避したことにより、今年のダービー馬の出走はゼロという珍しいケースになった。さらに言えば、英愛オークス馬アレクサンドローヴァも回避したことで、今年のクラシック馬で出走するのはセントレジャー馬シックスティーズアイコン1頭だけである。しかし、この馬がこのメンツに混じって好走するかどうかは、難しいといったところだろう。
その3歳馬の筆頭と目されているのが、パリ大賞の覇者レイルリンク。ここまで6戦4勝2着1回。前走は凱旋門賞への登竜門とされるニエル賞を快勝し、気を吐いている。が、この馬にしても裏街道を歩き続けてきており、実力に関しては白とも黒とも言いがたい未知数。アレッジド級か否かの試金石、といったところか。
こうした要素を踏まえ、今回ディープインパクトが凱旋門賞を制する確率は厳しく30%強、と予想してみた。ハリケーンランとシロッコのデッドヒートに、直線鋭く差し込むもわずかに届かず2着まで、と想像してみたがどうだろうか。
今年の凱旋門賞は、ディープインパクトのみならず、日本競馬全体にとってのターニングポイントとなるだろう。ここでもしディープがなす術もなく敗れ去ったとしたら、「この大駒をもってしても世界の壁は破れないのか」といった絶望感が漂い、これまでに築き上げてきた矜持と海外への意欲が消沈してしまうのでないか、という不安がある。
逆に勝ちでもしたら、お祭りムードの狂喜の後に、日本競馬が世界に肩を並べられる存在になったという自信が生まれ、なお海外遠征が活性化するのでは……とも思ったけど、「燃え尽き症候群」を発症するのでは、という危惧もまた、ある。
いずれにせよ、10月1日はロンシャンから目が離せなそうである。
しかし、ここまで言っておきながら、アイリッシュウェルズが圧勝しちゃって2着にプライド、とかなったりしたら腰砕けになるんだろうなあ。それはそれで面白いけど。
当初出走予定だった英ダービー馬サーパーシー、ヴェルメイユ賞馬マンデシャが今週になって回避を表明したことで、最終的には史上2番目の小頭数となる8頭立てでレースは行われる模様である。
常に定員超過状態の日本のGIと異なり、見込みがなければ他のレースへ回る潔さがいかにも欧州流、といったところか。記念出走や、「あわよくば上位に食い込んで賞金を持ってくるのでは」というスケベ根性丸出しの陣営が少数派なのが良い。だがそれは裏を返せば、出走するのは淘汰を経て舞台に残った馬達が揃ったということであり(明らかに二枚も三枚も落ちる馬は、同厩舎の有力馬のラビット役)、紛れが少なく実力が如実に結果に反映される。ファンにしてみれば興をそそられるであろうが、出走馬陣営にしてみれば恐ろしいことだろう。
今年の凱旋門賞は、ディープインパクトが出走するとあって、競馬サークル外でも関心が高まっている。三冠馬の海外遠征はシンボリルドルフ以来20年ぶり。そのルドルフが目標としながら出走すら叶わなかった凱旋門賞であることが何やら因縁めいているように思える。
確かにディープインパクトの実力の高さは衆目の一致するところである。が、付き纏う不安要素は連日そこかしこで取沙汰されている。
まず一つにローテーション。ディープインパクトはこれまで間隔を開けて使われ、結果を出してきた馬である。しかし今回は宝塚記念以来3ヶ月ぶりの実戦だ。逐一報告される調教過程は「順調」「絶好調」を連呼しているが、調子は絶頂でも勝負勘が戻っているかどうかとなると話は別だ。
少なくとも過去20年の間で、中3ヶ月で凱旋門賞を制した馬はゼロである(ラムタラにしても、キングジョージからは中2ヶ月)。約40年前まで遡ったところでようやく該当馬に行き着くが、その馬は20世紀最強と謳われたシーバードである。その領域にディープインパクトがたどり着いたかどうかについては何とも言えない。
ちなみに、フォア賞→凱旋門賞の連覇はアレッジド以来途絶えた「鬼門」とされているが、フォア賞負け→凱旋門制覇は1992年にスーボティカが達成しているので、ハリケーンランとシロッコにとって向かい風、というわけでもなさそうである。
次に問題なのが、馬場状態。どうやらおフランスではここのところ連日夜間に降雨があるようで、レース当日のロンシャンがパンパンの良馬場になる可能性は高くないだろう。
「ディープは重の宝塚を圧勝したから大丈夫だろう」という声もある。しかし、日本の重馬場とあちらの重馬場ではかなり事情が違う。クッションが効いた地盤は水を吸うとさらに柔らかくなり、球節が埋まるほどにまで悪化するという。つまり、レースで勝ち切るにはさらなる馬力が必要とされるのである。ディープインパクトは切れる末脚を長く使える馬だから直線半ばで売り切れる心配はないにしても、身上である切れ味を活かすことなく終わる(武豊流に言えば「飛ばなかった」)のではないだろうか。
とは言え、馬場条件は各馬一緒。となるとレース結果を占う上で最重要となるファクターは、やはり相手関係か。
下馬評では、今年の凱旋門賞は古馬ビッグ3による三つ巴、となっており、ブックメーカーのオッズにもそれは如実に表れている。
現在のところ一番人気は、ディフェンディングチャンピオンであるハリケーンラン。通算成績は11戦8勝2着3回の連対率100%。前走のフォア賞はシロッコの後塵を拝したものの、明らかに本番前の叩き台で力不足を露呈しての敗戦ではない印象である。主な勝鞍と照らし合わせてみるに、クラシックディスタンスへの適正の高さは全出走馬随一である点からも、王座防衛の可能性は決して低くない。
父が重の鬼モンジュー(この馬もまた凱旋門賞馬)である点から、重馬場も特に問題が無さそうである。しかし気になるのが、この馬が父親と非常に似通った道程を歩んでいる点。父モンジューもまた春にはフランス・アイルランドの両ダービーで主役を張り、秋には凱旋門賞で王座を戴冠。明けて翌年はタターソルズGC快勝→英国で1戦(コロネーションC1着)→キングジョージ制覇、という道のりを経て凱旋門連覇に挑んだものの、4着に終わる。「モンジューの劣化コピー」とまで揶揄される当馬、この尻すぼみっぷりまで継承してしまうのではないかという危惧もある。
もう1頭の有力馬シロッコは今期負け無しの3連勝。正確に言えば、昨年秋のBCターフから4連勝中である。5歳にしてなお盛んであることから晩成馬のようにも思われるが、3歳春にはドイツダービーを圧勝している。生まれ持った高い素質と成長力を兼ね備えた馬であることが分かるだろう。勢いで言えばハリケーンランよりはこちらかもしれない。良重兼用である点も怖いところだ。
だが、過去10年で古馬になって凱旋門賞を制したのはわずかに2頭である。これはひとえに、3歳馬と古馬との斤量差に依るところが大きい。古馬59.5kgに対し、3歳馬は56kgで出走できる。強力な3歳馬にとって、3.5kgはハンデもらいどころか強力なアドバンテージとなって作用する。
��ディープインパクトも当然59.5kgを背負うことになる。軽量馬であるディープインパクトにとって、これがどう働くのか…)
では今年の3歳馬はどうか、というとあまりぱっとしないというのが正直な感想か。英ダービー馬サーパーシーは冒頭で述べたとおり、筋肉痛により回避。愛ダービー馬ディラントーマスは愛チャンピオンS勝利後に早々と陣営が凱旋門賞回避を表明、仏ダービー馬ダルシもまた凱旋門賞を回避したことにより、今年のダービー馬の出走はゼロという珍しいケースになった。さらに言えば、英愛オークス馬アレクサンドローヴァも回避したことで、今年のクラシック馬で出走するのはセントレジャー馬シックスティーズアイコン1頭だけである。しかし、この馬がこのメンツに混じって好走するかどうかは、難しいといったところだろう。
その3歳馬の筆頭と目されているのが、パリ大賞の覇者レイルリンク。ここまで6戦4勝2着1回。前走は凱旋門賞への登竜門とされるニエル賞を快勝し、気を吐いている。が、この馬にしても裏街道を歩き続けてきており、実力に関しては白とも黒とも言いがたい未知数。アレッジド級か否かの試金石、といったところか。
こうした要素を踏まえ、今回ディープインパクトが凱旋門賞を制する確率は厳しく30%強、と予想してみた。ハリケーンランとシロッコのデッドヒートに、直線鋭く差し込むもわずかに届かず2着まで、と想像してみたがどうだろうか。
今年の凱旋門賞は、ディープインパクトのみならず、日本競馬全体にとってのターニングポイントとなるだろう。ここでもしディープがなす術もなく敗れ去ったとしたら、「この大駒をもってしても世界の壁は破れないのか」といった絶望感が漂い、これまでに築き上げてきた矜持と海外への意欲が消沈してしまうのでないか、という不安がある。
逆に勝ちでもしたら、お祭りムードの狂喜の後に、日本競馬が世界に肩を並べられる存在になったという自信が生まれ、なお海外遠征が活性化するのでは……とも思ったけど、「燃え尽き症候群」を発症するのでは、という危惧もまた、ある。
いずれにせよ、10月1日はロンシャンから目が離せなそうである。
しかし、ここまで言っておきながら、アイリッシュウェルズが圧勝しちゃって2着にプライド、とかなったりしたら腰砕けになるんだろうなあ。それはそれで面白いけど。