菊の香りを乗せた風

 逃げ馬アドマイヤメインで菊花賞に参戦することとなった武豊の脳裏には、あのレースが蘇っていたのかもしれない。
 1998年菊花賞。そう、本命馬スペシャルウィークに騎乗しながら、セイウンスカイの絶妙な逃走劇の前に完敗を喫した、あのレースである。
 当時セイウンスカイの鞍上にいた横山典は差し馬ドリームパスポートに騎乗。逃げ差し入れ替わって、8年越しのリベンジである。
 アドマイヤメインは逃げた。前半1000mで58秒台の猛ラップを踏み、次の1000mは63秒台に落として一旦息をいれ、ラスト1000mで再びスパートし、60秒台で駆けた。奇しくも、推定走破タイムは、セイウンスカイの勝ち時計と同タイムの3.03.2。ただ8年前との相違は、さらに前でゴールした馬がいたということ。
 横山典にすれば、この戦法は織り込み済みだったろう。それを示すかのように、ラスト3Fで34.0秒の末脚を繰り出し、アドマイヤメインを差しきってゴール板に飛び込んだ。だが、彼もまた先頭ではなかった。
 今年の3歳路線は、牡馬も牝馬も春の勢力図がそっくり秋へ持ち越される形となった。二冠馬メイショウサムソンも、「血統面も状態面も、三冠向けて視界良好」と言われながら三冠制覇の舞台へと上がった。
 そして、この上位3頭は連続した順番でゴールを駆け抜けた。それはダービーの時もそうだった。ただ春と異なっていたのは、その順番がそっくり逆転していたこと。もう一つは、この3頭よりも速く先頭でウィニングポストを駆け抜けた馬がいた、ということである。


 菊花賞(GI) 京都芝3000m 3歳牡・牝

��・ソングオブウィンド 3.02.7 R
��・ドリームパスポート クビ
��・アドマイヤメイン  1・3/4
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��・メイショウサムソン 2・1/2


 コースレコードでの決着。ついに菊花賞も3分2秒台の世界へ突入である。ホリスキーが勝ったときに「ついに出た、世界レコード!」と騒いだのが懐かしい。て、何年前だよ。つか俺まだその頃競馬やってないし。
 メイショウサムソン、7頭目の三冠は夢と散った。下馬評ではあれだけ「三冠間違いなし」と持ち上げられてたのに、終わったとたんに「あの馬はダービーがピークだった」「もう上積みは無い」など散々な評価。世間は敗者には冷たい。
 そのメイショウサムソン、父がオペラハウスということもあり「血統面では出走馬トップの適正あり」と言われていたが、終わってみれば「血統面で長距離に不安あり」と囁かれていた3頭に先着を許しているのだから、競馬は面白く難解だ。
 ソングオブウィンドにしても、牝系はラインクラフトやアドマイヤマックスといった短距離得意のダイナシュート系やイマイチ君量産のダイナフェアリー一族と同系のファンシミン系。
 2着のドリームパスポートは牝系はロイヤルサッシュ系で不安は無いものの、父はマイル近辺が守備範囲のフジキセキ。3着のアドマイヤメインに至っては、父が牝馬の特徴を強く出すサンデーサイレンスならば、母は早熟でかつマイル~中距離が主戦場だったプロモーションである。何とも、血統評論家泣かせの菊花賞だった、というわけである。
 とまあ色々書いたけど、当たらなきゃ意味無いね、うん。コンプレッサー、どうすっかなー……orz

菊花賞予想

◎アドマイヤメイン
〇メイショウサムソン
▲トーホウアラン
△ドリームパスポート

 当たったら車のコンプレッサー修理に出します。

こんなところでも衝撃

 ディープインパクトから禁止薬物検出

 http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=16345&category=A

 今回検出されたイプラトロピウムとは、気管支平滑筋の収縮を抑制する作用を持ち、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫に基づく呼吸困難などの諸症状の緩解に用いられる薬物、一言で言えば息の通りを良くする薬。JRAでは禁止薬物に指定していないものの、フランスギャロにおいてはさにあらず、というわけである。
 それにしてもこのニュース、少々きな臭い。理化学検査の結果報告が、フランスギャロよりなされたという点が何とも不透明である。現にあちこちでは、「陰謀ではないか?」と囁く声すらあったりする。もっとも、それをやったところで誰に得があるのか、という疑問に対して明確な答えが無いのだが。
 そうでないとすると、陣営側が投与したということになる。この薬が、長期間にわたって蓄積しない性質を有していることから、投与は凱旋門賞の直前、ということになる。
 陣営のリサーチ不足だとか、実はディープは喉鳴り持ちだっただとかはさておき。
 ラシックスのように身体能力の底上げ作用だとか、カフェインなどのように精神昂揚を目的とした薬物ではない。そりゃまあ、薬物である以上は副作用とそれに伴う事故の可能性が憂慮されるわけだから、徹底して摂取させない方向でも構わないと思うが、プラトロピウムが禁止というならば鼻腔拡張テープも禁止じゃないのか、これって。そうなれば、矯正具の類も規制見直しの必要があるわけで、シャドーロールやブリンカーなどの使用制限も生まれてもよさそうなものだ(尤も、動物愛護の観点からムチの使用回数は制限されているが)。
 ショー娯楽要素が強く、ある意味何でもありなアメリカ競馬と、伝統を重んじてできる限り公平で自然なままの競走を施行する欧州競馬とは、相容れない範囲が存在する。日本はスタイル的には欧州寄りではあるが、アメリカに近い許容さも併せ持っている(とはいえ、もちろん禁止薬物はアメリカよりずっと多く、蹄鉄も制限があったりするが)。今回の事件、ディープの国内出走には問題は無いが、フランスギャロの裁量次第では、凱旋門賞で失格処分になる可能性も出て来ている。
 統一規格が競馬界に持ち込まれるのはいつになることやら。

夢か現か

 新しく何か書こうと、テキストエディッタを起動させる。
 キーボードの上に指を乗せるも、数分経っても最初の一文字が打ち込まれない。
 何を書きたいんだか、さっぱり浮かんでこない。
 もうこの状態が半年以上に亘って続いている。焦燥感とは裏腹に、創作意欲が湧いてこない。
 焦る必要がない事は重々承知だ。プロの物書きではないのだ。趣味で書いてるだけなのだ。しかし、書くことで保っていたアイデンティティが瓦解していくように感じているのも事実だ。
 モニターの前で焦れる俺の後頭部から、不意に声が掛かる。
「まだ何も書けないのか?」
 弾かれたように振り向く。だが、万年床と崩れかかった本の山に埋もれた部屋には、俺以外に誰もいない。
「そんなとこにいねえよ」
 またも背後から声。いや、聞こえるのは俺の中から、か?
「駄目だなあお前は。オチがありきたりだとか、客観的に読んでてつまらないだとか、くだらないことに拘りすぎてるんだよ。違うだろ? 書きたいから書いてるんだろ?」
 声が低く粘っこく、耳の奥に響く。
「俺に代わってみろよ。俺なら呼吸するのと同じくらい当たり前に書き続けてやれるぜ」
 指がキーボードをゆっくり押し下げていく。だが、その指を操っているのは誰だ?
 最初の一文字がディスプレイに浮かんだ。反射的に俺はDelキーで文字を削除する。
 声は消えた。俺は変わらずここにいる。
 だが、その自我をいつまで保っていられるかは分からない。

まあ、そうだわな

 さて、今日は二本立て。
 軽くパラノイア気味の日記第一弾は、下のほうで読んでいただくとして。

 ディープインパクト、今期限りで引退
http://www.netkeiba.com/news/?pid=news_view&no=16144&category=A

 凱旋門賞で3着に破れ、今後の動向が注目されていたディープインパクトの年内引退の意向が、オーナーサイドより池江調教師を通じて発表された。
 引退後は総額51億円(8500万円×60口)という巨額のシンジケートが組まれる予定である。

 冷静に考えれば、これが至極真っ当な選択だろう。
 ファンの立場からすれば「もっとこの馬の走りを見たい」「来年もフランスへ渡り、凱旋門賞でリベンジを果たしてもらいたい」という願いが強いだろう。ショービジネスの観点から言えばこれもまた真っ当ではあるが、統括的な競馬ビジネスという点を考えると、オーナーの選択が正しいだろう。
 競馬には絶対は無い。来年まで現役を続行させた場合に、ディープインパクトがレース中に予後不良とならない保証はどこにもない。万が一そういうケースに陥れば、金銭的な損失以外に、種牡馬として成功する可能性まで永久に失ってしまう。
 現在の競馬界は、圧倒的に巨大な金額が動くビジネスの場だ。そこに安っぽいロマンは入り込む余地は、もうないのかもしれない。
 もっとも、某TM馬のように、「馬券が買えない海外に遠征するのはファンサービスの精神に反する」などと意味不明なことを言い放ち、「高額賞金渦巻く国内での現役続行」というビジネスを選択した結果、力の衰えを露呈して晩節を汚した例もあるにはあるが。しかも、引退後にシンジケートを組まずに個人所有にしちゃって、種牡馬としての前途が暗いというおまけ付きだったり。
 欲の皮突っ張らせるのもほどほどに、てところか。
 
 

アニヴァーサリー

 気付いたらサイト開設4周年過ぎてやがりましたよ。
 来訪してくださったのべ14000人強の方々に感謝ですよ。
 つかアクセス数少ないなオイ。2ちゃんねるの一日の訪問数の100分の1にも満たねぇよ。山奥に「ふれあいコートジボアール館」とか建造したほうが、よっぽど客入るんじゃねーの、と。つか何展示してるんだコートジボアール館。ちょっと興味あるじゃねえか。

 そろそろ、超-1に送った作品の掲載と自己評でもうpしようかと思ったけど、メンドイんで後日に。て、こんなんだから人来ねえんだよ。わかんねえかなこのバカは。

 ディープインパクトが来年も現役続行、との噂が流れてる模様。
 普通に考えれば、既に功成り名遂げているわけであり、評価は半ば固定化されていると思う(今後、高松宮記念-スプリンターズS連覇とか、安田記念を1分30秒台で圧勝とかやっちゃったら話は別だろうけど、実現性はかなり乏しいわけで)。
 この先の戦績が第二の仕事(つまり種牡馬生活)に大きく影響しないであろうことを考えると、リスクを負って現役を続行するくらいなら、とっとと精液迸らせてたほうが得じゃないか、と考えるのが一般的じゃなかろうか。
 仮に現役続行するなら、有馬記念を辞退して金杯に出走とか、別な方向でセンセーショナルなことをやってくれなきゃつまらん。つか何kg背負うんだろう、金杯で。ワクテカ。

 タバコが切れたので今日はこの辺で。

after the fever

Prix de l'Arc de Triomphe Lucien Barriere (Group 1)
Longchamp 1m4f

1 Rail Link (GB) 4 A Fabre 3 8-11 S Pasquier
2 nk Pride 5 A De Royer-Dupre 6 9-2 C-P Lemaire
3 ½ Deep Impact (JPN) 2 Y Ikee 4 9-5 Y Take
4 2½ Hurricane Run (IRE) 1 A Fabre 4 9-5 K Fallon
5 2 Best Name (GB) 3 Robert Collet 3 8-11 O Peslier
6 snk Irish Wells 7 F Rohaut 3 8-11 D Boeuf
7 4 Sixties Icon (GB) 8 J Noseda 3 8-11 L Dettori
8 1½ Shirocco (GER) 6 A Fabre 5 9-5 C Soumillon

8 ran TIME 2m 31.70s (slow by 0.20s) TOTAL SP 122%


 というわけで、今年の凱旋門賞は3歳馬レイルリンクが制した。戦前では古馬3強対決と言われながら、終わってみればやはり斤量に恵まれた3歳馬の勝利。レイルリンクがアレッジド級に育つのか、はたまたサガミックス級で終わるのか。答えは来シーズンに持ち越されることとなった。
 2着には紅一点のプライドが鋭く差し込んできた。牝馬にはややきつい58kgを背負いながらも勝馬をクビ差まで追い詰めた末脚は立派の一言。サンクルー大賞典でハリケーンランを破ったのはフロックではなかった、というところか。

 さて、ディープインパクト。七度目の正直は成らなかった。
 ディープを取り巻くディスアドバンテージは戦前から囁かれていた。だが、ローテーションについてはともかくとして、他の要素は敗北に対する決定的要因にはなりえない。
 当日のロンシャンは馬場はGood、地盤はFirmでかなり状態がよく、他のレースでは速いタイムが出ていた(2歳の1400mのGIが1分18秒台で決着していた。これは日本レコードより速い時計である)。凱旋門賞は当日の全レースの中で平均ラップが最も遅く、結果としてあのような遅いタイムでの決着となった。馬場が重かったわけでは、決してない。
 3歳馬との斤量差は、無視できない存在だった。しかし、古馬で凱旋門賞を勝った馬は皆無ではない。十分勝てる負担重量なのだ。慣れない馬場との相乗効果、というならば、アウェーでかつ59.5kgを背負って勝利を収めたリボーやトニービンはどう説明するのか。さらに言えば、ディープを後方から抜いて2着に入線したプライドも古馬の負担重量である。

��余談だが、某SNSで「59.5kgはきつい。凱旋門もハンデじゃなくて別定にすればいいのに」というレスがあった。
 凱旋門賞はハンデ戦ではなく、馬齢による定量負担である。ハンデ戦だったら、斤量差はこんなものでは済まないだろう。また、別定戦とは「それまでの戦績に応じて負担重量を決めるレース」であって、全馬が同量を背負うという意味ではない。
 そもそも、別定などにしたら何を基準に負担重量を決めろというのか。レースの格による負担にしても、ディープは国際GIである宝塚記念を勝っているので全く意味がないし、他の馬も大半がGI馬だから、ただいたずらに斤量が増えるだけの話である。賞金による負担だとしたら、世界トップクラスの高額賞金国からの参戦馬は圧倒的に不利だ。
 軽い斤量の3歳馬が有利だと喚くならば、昨年の有馬記念ではディープを破ったハーツクライのほうが重い斤量を背負っている。もう少し考えてから発言してもらいたい)

 騎乗は「あれでよかった」とする声と「もうちょっと何とかならなかったのか」とする声とで意見が二分されている。俺は後者派だ。
 ややもっさり気味のスタートながらも先団に取り付いてしまい、武が手綱を引く場面もあった。終始馬群のど真ん中でレースを進めるのは菊花賞で経験済みだったにしても、ちぐはぐな印象があった。
 だからこそ、フォルスストレートの出口付近で早々に先頭に並びかけて押し切ってしまおうとしたのはいただけないように思えた。追い出しをもう少し遅らせただけで、結果は変わったのではないか。実況席で岡部元騎手が「まだまだ、まだ」と発してしまったのも分かる気がする。菊花賞はそれで押し切れても、凱旋門賞では通用しなかった。
 とまあ、敗因に関して今更ああだこうだ言ったところで結果論でしかない。レースは既に確定し、ディープは3着という結果が手元に残っただけだ。強い馬はあらゆる条件を克服して先頭でゴールする馬である。ディープは速い馬だ。しかし、初めての欧州の舞台と負担重量に慣れず、展開に応じた自在性あるレース運びを出来なかった。それだけである。ぐだぐだと敗因要素を並べ立てて「今回の負けは、力負けじゃない」と呪詛のように繰り返し続けるファンに対して「惜しくても負けは負け。綺麗事を言ってもしょうがない」と結果を真摯に受け止めたコメントをした池江調教師は潔い。最も悔しい思いをした一人だろうに。

 今年の凱旋門賞は、レースそのものより日本人ファンの熱狂振りが強く印象に残った。良い意味ではなく悪い意味で。
 マスメディアが煽動した結果、ディープインパクトは競馬界を超えたカリスマ的偶像として日本に君臨した。だがそれは、ミーハーなファンを徒に増やしたにすぎなかった。
 観戦ツアーは、ノリ的にはサッカーのワールドカップのそれと大差ないように思えた。馬券を買い漁った結果、単勝オッズを1.1倍。一体いくら買ったんだよお前らは、と問いたい。
 最後の直線では日本の競馬よろしく怒号に近い歓声を張り上げ、ディープが破れたのを知ると悲鳴が飛び交う。明らかにロンシャンの風景から浮いていた。
 パリジェンヌたちの目には、遠く島国からやってきた応援客がどう映ったのだろうか。ある者は眉をひそめ、またある者は冷笑を浴びせたのではなかろうか。いずれにせよ「Sports of Kings(貴族達のスポーツ)」という概念は当てはまらないだろう。
 ここまで凱旋門賞で熱狂したのは、日本人くらいなものだろう。自国の最強馬が世界に挑むのだから興奮するのはわかるが、それでもちと加熱しすぎの感はあった。これが逆ならどうだろう。欧州最強馬がBCクラシックに挑む、となった時に、当地のファンはここまで入れ込むだろうか。

 第85回凱旋門賞は、日本現役最強馬が3着に破れた、という事実に加えて、日本人の陳腐なナショナリズムをも露呈することとなった。競馬技術は世界に肩を並べても、競馬文化はまだまだ国内止まり、といったところか。

 ディープインパクトの今後は未定である。
 頭を掠めるのは、この後に控えているジャパンカップ、有馬記念をディープが連勝しても、今までのような熱狂的な声は、数段低いトーンとなるのではないか、という考え。
 両レースを圧勝しても「慣れてる国内だとやっぱ強いねえ」「所詮は内弁慶か」と囁かれるのではないだろうか、というのは俺の杞憂に終わるのだろうか。
 英雄の神話は絶頂を過ぎ、あとは終焉へと落ち込むだけである。だが馬は馬、なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 言いたい放題だね、俺。