オカルト系の掲示板において、不可思議・不条理現象を語るスレでたまに「ほんの一瞬で朝になった」という話が話題にのぼることがある。
曰く、
「寝るときにまぶたをゆっくり1回、2回、3回と閉じたら3回目にはもう朝になっていた」
曰く、
「夜空見ながらぱちぱちまばたきして目を開いた瞬間もう空が明るくなってた」
曰く、
「夜中の3時、ベットに入って目を瞑り数秒してから目を開けると、もう朝の9時だった」
もしかすると、時間経過の感覚がないほど熟睡したのかもしれない。
しかし、当の本人にすれば、不条理に思える現象なのである。
かくいう俺も、一度だけ同じような経験がある。小学校の頃だ。
何年生だったかは忘れたが、夏休みだったことだけは記憶している。
その日俺は、母方の祖父母の家に泊まりに行っていた。
両親がいたかどうかは憶えていないが、当時祖母の新聞配達を手伝っていたので、一人で泊まりに行っていたのかもしれない。
祖父母宅は、十坪ほどの庭を取り囲むような、コの字形状をした平屋建て家屋だ。
庭の西側は開けていて、広大な田園へと繋がっている。
庭の北側に面した場所には、家族が集まる茶の間や祖父の部屋、浴室などがある。
東側に面した場所は、八畳の和室と、同じ広さの仏間があり、襖一枚で隔てられている。
南側に面した場所には、祖母の部屋と、空室になっていた六畳間、そしてくみ取り式の便所がある。
当時、祖父母宅へ泊まりに行くと、決まって空室の六畳間が宛てがわれた。
確かその日も、六畳間で寝ていた「はず」だ。
ただ、布団に入ったときの記憶はすっぽり抜けている。
朧げに残っている記憶。
それは、家中から明かりが消えた真夜中、仏間の隣の八畳間に足を踏み入れたこと。
そして、畳の上に寝転がったこと。
なぜそんな行動に出たのかは、未だ不明だ。
俺の中では、ほんの2、3秒の時間経過でしかない。
だが、瞼を開くと、朝の白い光が八畳間に溢れていた。
当時俺は、ほぼ毎日のように夢を見ていた。
それこそ今でも思い出すことができる強烈な夢や、覚醒して数秒で霧散するような夢まで。
その晩は、夢を見た感覚が全く残っていなかった。
寝たという感覚すら。
今思い起こしても、我ながら行動が不可解だ。
何故、夜中に八畳間にいたのか?
仮に、トイレで起きたのだとしよう。だが、トイレは寝泊まりした(はずの)六畳間のすぐ隣だ。
当時は夏の暑い盛りだ。寝苦しさに目を覚まし、涼を求めていたのかもしれない。
しかし何もあんな真っ暗な、しかも仏間の隣に行かなくても……。
しかし、とも思う。
俺は本当に、寝転んだ直後に入眠したのだろうか?
人間に備わっている自己防衛手段の一つに、解離性健忘というものがある。著しく強いストレスや心的外傷のショックを和らげるために、記憶を失う症状を指す。「重要な個人的情報の想起が不可能であり、ふつうの物忘れで説明できないほど強い記憶の喪失」と定義されている。
つまり、記憶に留めておくと正気を保てないほどの忌まわしい記憶を脳の外に弾きだす(あくまでも比喩的表現です)ということ。
可能性の一つでしかないが、無いとは断言できない。
寝る間際、忌まわしい何者かが眼前に現れたとしたら。
見つめた夜空に飛び交う異形の存在があったとしたら。
仏間の暗がりから、何者かが這い出してきたとしたら。
幼い脳に耐えられない「恐怖」が現出していたとするなら─。
仮説の域を出る話ではないが、これが真相だとしたらどうだろう。
幼少の頃の俺は、「何を見た」のか?
想像を巡らせると、ちょっと面白い。
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